殺意と愛情

 

 

 

 


 暖かいとも、冷たいとも思わなかった。
 拘束力を増す手に息苦しさを覚えただけで。
「……どうして、おまえは……ッ」
 首を絞められているのはあたしなのに。どうしてあんたのほうが苦しそうな顔をしているの。
 ああそうか。あんたがあたしの肉体を殺すから。
 あたしはあんたの精神を殺すのだ。
 あたしはあんたに殺される。
 ――――それもいい。

 

 

 

 


 喉を潤す為に香茶を口に含む。
 黙したままの話し相手を訝しく思い、視線を上げた。これまで無駄話に花を咲かせていたのに急に黙るなんて。何かあったのだろうか。
 彼は苦虫を噛み潰したような――と言うよりは、家庭内害虫でも見るような目であたしを睨んでいた。
「……どうかした?」
 問えばわざとらしい溜息をつかれる。そして矢張り無言を保っている。
 文句を言う気力もないのか、言わずとも察しろと言いたいのか。その両方か。
「なによ」
 まあ、言わずとも何を言いたいかはわかる。
 確かに気分の良い話ではない。あたしだって彼から同じ話をされたら、全く同じ反応を返しているに違いない。
「たかが夢の話でしょーが」
 軽く笑ってもジト目で見られるだけだった。それとも笑ったのがマズかったか。
「それに今更、ひと殺すのに罪悪感なんて覚えないでしょ」
「おまえな」
 ボソリと洩らされた諌めの言葉にペロッと舌を出す。
 冗談だ。彼の反応を見て楽しんでいるだけ。彼もわかっているのだろう。話題が話題ゆえに対応に困っているのだ。
 ――――冗談だ。
 冗談、ではあったが……嘘ではなかった。
 敵とみなせば誰を相手取ろうと躊躇わない。自分が生きるためなら。
 罪悪感も感じない。殺す気でかかってくるなら、向こうだって返り討ちに遭う覚悟くらいできているハズだ。命のやり取りをする度に罪悪感を感じていたら心が参ってしまう。
 振りかかる火の粉は払う。黙って耐えてやるほど優しくない。
 けれど。例外だって、あるのだ。
「光栄に思いなさいよね」
「何をだ」
 すぐさま突っ込まれた。あたしは微笑って応えない。
 夢の話だ。現実ではない。それでも本気で思った。嘘なんて無かった。
 殺されてもいいなんて目の前にいる男相手にしか思わない。
 つけあがるから、ぜったい言ってやらないけど。











――終。

稿了 平成十五年二月十六日日曜日
改稿 平成十六年十一月十六日火曜日