LIE OR TRUTH?




 顔から一切の険が抜けた。
 なかなか面白い。
 どんな表情を見られるのか楽しみだった。もちろん本心とは別だ。別だが、反応を見たかったのも事実だった。酒の勢いもある。その場の勢いもある。二人きりという状況も原因の一つだ。他に切迫した感情なども後押ししてつい言ってしまっていた。
 鼻で笑うか疑うか。馬鹿にしているのかと怒り出すか。想像はそこまでで。まさか一種、呆然とした表情を見せてくれるとまでは想像していなかった。
 滑稽だ。
「嘘だよ」
 口の端を吊り上げ吐き捨てた。
 自制しなければ大声で笑いだしていた。
 滑稽だ。滑稽と言う以外に何と言えばいい? 他に的確な言葉を見つけられない。
 嘲りも拒絶も無い。相手にとって完全に予想外の言葉だったらしい。要するに眼中にない、あるいは意識すらしていなかったという意味だ。普段の己の言動、行動を顧みれば至極当然とも言える。自業自得だ。
 溜まったツケは自分で払わなければならないようだ。
「嘘に決まってんだろ。まさか本気にしたんじゃねえだろうな」
 不自然に聞こえないよう出来得る限り馬鹿にした口調で。受けた痛みを悟られぬよう眇めた目に巧妙に隠す。
 いかにも傷ついてますという態度をどうして取れようか。相手にされてないってのに。
 まだ拒まれた方が楽だった。なにも知らなかった、そんな天地が引っくり返るほどの驚きを見せつけられるくらいならば。
 嘘に変えればタチの悪い揶揄で済ませられる。これまで通りの関係を続けられる。それが俺の払うべきツケだ。払ってやるさ。墓場まで連れて行ってやるよ、見事に当たって砕けた想いを。おまえのお望み通りにな。俺の本心なんぞ知りたくもないんだろ? 気づかないどころか男という対象として見てもいなかったんだからな。
 怒りで染まる女の目を見ながら冷めた頭で煮えくり返る心を冷やす。勢いの良い罵倒を適当にかわして。
 嘘にしてやるよ。何もかもおまえの望み通りに。
 日常がそんなに良いなら。そんなに不変の関係を望むなら、その通りに。
 ――――冗談でも言うじゃなかったぜ。
 好きだ、なんて。
 慣れぬ後悔に身を浸した。




















――終。

稿了 平成十六年二月二十一日土曜日
改稿 平成十六年四月一日木曜日